本当のグローバル人材になるために必要なこと

企業のグローバル化にあわせてグローバル人材の必要性が唱えられている。この点に関して北尾(2015)は、グローバル化の時代だからこそ日本を理解しなくてはならないという。日本人としての特質をしっかりと理解し、日本人とはどういう民族なのかを十分に理解し、それを活かしていかに世界に貢献するかを考える事が大事だという。例えば、本来、日本人の本質は排他的なものではなく、むしろ、自らの誇りを保ちながら相手も尊重するという人間尊重の精神こそが日本人の特徴だという。そうやって他国の文化を受容し、工夫改良し、発展させてきたのである。また、日本人の感性というものの素晴らしさをアピールするというグローバル化もあると説く。


日本人としての特徴を意識しながらグローバル人材として成長するために有用なのが、日本の先哲の知恵の力を借りることである。そういう面も含め、北尾は、安岡正篤による人間学である「安岡教学」を紹介する。人間学は、人としての土台をつくるための学問であり、生きる意味、人間の使命を知るためのものだという。北尾によれば、安岡正篤が一貫して説き続けたのは、自らに反り本来の自己を自覚(自反尽己)し、天から与えられた使命を知り(知命)、自己の運命を主体的に自ら切り拓く(立命)ということの人生における重大性と必要性だという。この自己維新の一灯がやがて万灯となり国や世界をも正しい方向に変えることに繋がるわけである。


安岡教学では、毎日直面する出来事を糧として自己修練し、人間力を高めていくことの大切さを強調する。このような「体験から学ぶ」ことと並んで「人物から学ぶ」ことも強調する。古今を通じて優れた人物から学ぶ。つまり、自分の範とすべき師をもち、その人物はいかにしてそういう偉大さを身につけたのかを学び、自分もその人物に一歩でも近づこうという思いを持つ。そこに、尊敬の念が助長され、今度はその対局となる恥の気持ちが芽生えてくる。安岡によれば、敬は、少しでも高い境地に進もう、偉大なるものに近づこうという心で、それは同時に反省し、自らの至らざる点を恥じる心になる。この、敬から生じた恥が、自分も発奮してもっと頑張ろうという「憤」の気持ちにつながると北尾は指摘する。これが大きくは人類の進歩を促し、その人自身を成長させる原動力にもなるという。


若いときから人間力を高めれば、上司に引き立てられる部下になれる。北尾によれば、上司に引き立てられる部下の共通点は「素直、謙虚、誠実」である。これは、部下だけでなく、上に立つ者も持たねばならないともいう。そして、人間関係を円滑にする「礼」も大切だと論じる。出世とか地位とかは気にする必要はなく、自分の分をわきまえ、自分の役割に徹する生き方こそ立派だという。与えられた役割を十全に果たすために努力する。また、北尾は、人を見るときはとくに「信、義、仁」という3つの物差しに照らし合わせて判断するという。分かりやすく言えば、、「信」は「約束を破らない」こと、「義」は「正しいことを行う」こと、「仁」は「思いやりの精神」である。この基準で人を判断すれば、誰とつき合うべきか、誰とつき合ってはいけないかが明確になるという。


リーダーとして特に大切なのは「志」によって仕事や会社を考えることだと北尾はいう。これは、私利私欲から発する「野心」とは異なる。そもそも仕事は自分の為のみでなく、公のためにある。天に仕え、天の命に従って働くのが仕事である。言い換えれば、世のため人のために何かを行うのが仕事だと北尾はいう。そして、大きな視点で仕事を捉えることである。また、機を逃さないことも大切だと説く。「機(タイミング)」を見極め、しっかりと掴む。安岡によれば、人間も自然も「機」に満ちている。したがって人生というものも、機によって動いている。物事にはすべて「機」がある。だから、機が熟さないと何事もうまくいかないのである。