戦略脳を鍛える

御立尚資 著

筆者は、真に競争優位を獲得する戦略は、単にアカデミックな戦略を勉強しただけでは実現できないと説く。アカデミックな戦略論は、過去の成功事例をもとに後講釈で定式化したにすぎない。つまり、囲碁将棋でいう「定石」である。定石を勉強するのはもちろん重要で、戦略の専門家になりたければ、できるだけ多くのパターンを覚えることは必須である。しかし、それだけではダメである。それプラス、ユニークかつ優れた戦略を生み出すために重要なのが「インサイト」であると筆者は言う。インサイトとは、あえて日本語に訳せば「洞察力」であろう。あるいは、「直観」とか「センス」のようなものだろう。筆者の論旨を汲み取るならば、インサイトとは「人間の右脳の持つポテンシャルを最大限に活用すること」のように思われる。インサイトを分解すれば、それはスピードとレンズになり、スピードは、パターン認識とグラフ発想に、シャドーボクシングを加味した要素にわかれる。パターン認識とグラフ発想は、右脳的なイメージ能力を活用しながら戦略にかんする「仮説」を生み出すプロセスにつながり、シャドーボクシングは、左脳的な論理思考を駆使して仮説を鍛える作業であると解釈する。レンズは拡大、フォーカス、ひねりというレンズの使い分けがポイントとなる。つまり、さまざまな視点から物事を眺めることである。これらの頭の使い方を身に着けるためには、まず本書を読んで仮想体験をしてもらうのに加え、実践の場で「知的に汗をかく」「脳から汗を搾り出す」ことによって鍛えていくことが必要だろう。

戦略「脳」を鍛える