会社との関係をWIN-WINに持っていく。

会社に勤めている場合には、しばしば、自分で違和感のあることであっても会社の命に従わざるを得ないことがある。例えば、自分にとって長期的にも短期的にも向いていない仕事をやらされたり、そういった部署に配置転換されるような場合である。


会社が本当に自分のことを理解していて、教育のためにそういった試練を与えてくれるといった主旨であればよいのだが、実際、そうでないことのほうが多そうだ。つまり、会社は自分のことを本当に理解しておらず、場当たり的に人事異動を行なったり、空席を埋めるためにとりあえず頭に思い浮かぶ人材をあてるといった場合だ。


この場合、社命だからといって淡々と引き受けてしまっては、WIN-LOSEになりかねない。もちろんLOSEになるのは自分だ。会社の言うとおりいろんな仕事を引き受けて、いろんな部署を移動しているうちに、まったくコアのない、つまり何もできない人材になりさがってしまうリスクもある(Jack of all trades)。実際、会社はそこまで個人個人の先のリスクを考慮して大勢の人事異動を実施しているわけではない。WIN-LOSEならまだしも、自分が使い捨てのごとく磨耗してしまって使い物にならなくなり、それが会社にとっても大きな損失につながるならば、LOSE-LOSEにさえもなりかねない。


したがって、自分にとって好ましくない命令を受けたり仕事を与えられそうになったりしたばあいには、自分と会社とでWIN-WIN型の交渉に持って行く必要性がある。WIN-WINの状態とは、自分自身がその会社、その職場で持てる力を最大限に発揮でき、それによって、会社も業績向上というようなかたちで恩恵を被るような状態を指す。そうなるためには、多少わがままを通しても、結果的に、自分も会社もハッピーになれるような打開策を提案し、受け入れてもらわねばならないわけである。


WIN-WIN型交渉を行なうためには、ハーバード式でいうところの、原則立脚型交渉を用いるのが定石だ。しかし、この場合注意しなければならないのは、一社員という立場と、会社とは権力の差が一目瞭然であることだ。会社側がこちらの主張を十分理解してくれることによって最良の策が講じられるのならばよいのだが、会社がはなっから聞く耳を持たなければ、粘り強くWINWINに持っていくといっても限界がある。会社が「そんなにごねるなら辞めれば」と、あくまで当初の命令を押し通し、それに屈するように強いプレッシャーをかけてくることだって考えられる。


だから、最終的には両者がハッピーになれるWINWINを目指すにしても、交渉には綿密な計画をたて、慎重に行なうべきであろう。相手が権力を振りかざすことを選択してゲームオーバーにならないよう、ステップを踏みながら、一歩一歩、ゴールとなる裁量の解決策にむかって進んでいかなければならないのである。