強さの鍵は「シンプル志向」

松井(2012)は、アップル社での16年にわたる勤務時代を振り返り、アップルをアップルたらしめている最も強力な仕組みとして「シンプル志向」を挙げる。例えば、組織がシンプルな構造になっているため動きが機敏である。またアップルには「機密保持」と「自分の仕事に責任を持て」くらいしかルールらしいルールがないという。つまり守るべきルールが最小限である。よって、スリム化、シンプル化は強さを身につけるうえで重要である。


次に「やること」と「やらないこと」を明確にすることが大切だと松井はいう。思い切って無駄を省き、大胆なスリム化を行い、視界もクリアになったならばやることがこれである。特に「やらないこと」をキチンと決めることが重要だという。これは、自分たちの得意分野と不得意分野を正しく理解し、特異な分野に特化するということでもある。そして、さらに「やること」に優先順位を付け、「ひとつのこと」にフォーカスする必要があるという。


また、社員の力を引き出すのは「明快な責任の所在」だと松井はいう。アップルは団体責任のような責任の問い方はせず、個人個人の社員に責任を帰し、個人個人の責任を追及するやり方をしているそうである。そのため責任の所在が曖昧になることはないという。説明責任は平社員からトップまでずっと付いてまわる。責任を問われるから真剣になるのである。そして責任とセットで与えられるのが自由裁量である。責任が大きくなれば与えられる自由裁量の範囲も日本の会社では考えられないくらい大きくなるという。