米国企業に学ぶ日本企業らしい戦い方とは

中村(2011)によれば、高度成長時の日本は、先進国の最後尾に位置し、日本を脅かす存在はなかった。この「雁行型経済発展」において、日本は「豊かな先進国市場」をターゲットに、価格競争力を武器に品質の向上を進め躍進していった。その結果、1980年代後半には、価格面でも技術面でも日本製品を凌駕するものがないと言えるほどの競争力を持つようになった。しかし同時に、日本は「技術」や「ものづくり」を過信するようになり、製品のガラパコス化を招いた。そして現在は、「ゲームが完全に変わった」と言えるほど劇的な変化が起こっていると中村は指摘する。


それは、韓国や中国などの新興国が、世界における新たな生産拠点となって技術的にも品質的にも競争力のある製品を輸出することになり、なおかつ生産拠点としての魅力だけでなく、市場としても魅力的な存在になってきていることと関連がある。つまり、先進国による「雁行型経済発展」に代わる新しいゲームとは、生産拠点としても市場としても魅力的な新興国のプレイヤーが作った「新興国参入型」ゲームと呼ぶべきものだと中村は言う。そして、この新しいゲームに日本企業が対応できていないばかりか、日本企業は相変わらず旧来のゲームをプレーし続けているようだと警鐘を鳴らすのである。


そこで参考となるのがアメリカの対応である。アメリカはかつて、日本企業の躍進によって自国市場が日本製品で埋め尽くされるという経験を持ち、産業の空洞化が社会問題となっていった。そのような背景もあることから、昨今の新興国参入型ゲームに対しては冷静な対応をとっているようだと中村は言う。それは、新興国で作ったゲームでは戦わない、相手の土壌で勝負しない戦略である。


中村によれば、米国企業の戦略の最大のポイントは、自国や進出国の消費者のニーズに応じて製品を開発するというよりは、消費者自身も認識していないような深層にあるニーズを見つけ出して、そのニーズに呼応した製品やサービスの提供を行っている点にある。つまり、潜在的なニーズを満たすという点で、今まで世の中になかった製品やサービスを提供するということである。そうすることで、他の企業にまねできない製品、ビジネス・モデルをつくり出す米国企業が多いのである。


例えば、PC、音楽配信スマートフォンなど次々と革命を起こしている「アップル」、ネットを駆使して他の追随を許さないビジネス・モデルを構築していった「アマゾン」、クラウドを牽引する「グーグル」、巨大なSNS市場をつくり出したフェイスブックなどはその代表例であろう。ハイテク以外であっても、スターバックスマクドナルドなど、新たな市場を作り出すことに長けた米国企業は多い。では、日本企業はどのようにして「新しいゲーム」の支配する世界で戦っていけばよいのだろうか。中村は本書の残りの部分で、その対応策を論じる。