ベイズの定理が可能にする冷静な分析

北岡(2009)は、インテリジェンス(利益を実現する知識をインフォメーションから生産する活動)における分析において、ベイズ定理の有効性を示唆している。そのポイントは、インテリジェンス活動においてなんらかの仮説を設定し、その後、新しいインフォメーションがもたらされたときに、適度な仮説修正を行うさいに有効だということである。


ベイズの定理を用いない場合には、人間の思考の特徴としてヒューリスティクス(認知の近道)が発動され、ベースレートの無視やギャンブラーの誤謬といったバイアスもしくは確率論的な誤りに陥り、適度な仮説修正ができない可能性がある。それに対し、ベイズの定理に基づけば、冷静に仮説を適度に見直すことが可能となる。


ベイズの定理の考え方は、まず「事前確率」というものを想定することによって、わずかなデータから思いきって推測を行うことである。ベースレートは事前確率にあたる。インテリジェンスでは、分析対象は時々刻々と変化し、インフォメーションも時々刻々と変化する。これらのインフォメーションを、複数の仮説とつきあわせて、それぞれの仮説に付与された実現可能性、すなわちベイズの定理で言う事前確率を適宜修正していくのである。


人間は新しいインフォメーションに強く影響され、翻弄されがちである。それに対してベイズの定理は、冷静な視点から「新たな変化を、これまでの積み重ねによって相対化する」ことを可能にする。ベイズの定理的な思考は、新しいインフォメーションが入ったときに、当初の仮説に固執してしまうのでもなく、当初の仮説を完全放棄してしまうのでもなく、当初の仮説をバランスよく、適度に修正していくのに適しているのである。