的の中に入ってしまう集中力

ドイツ人のオリゲン・ヘリゲルは、「弓と禅」の中で、弓道の師匠から学んだこととして、的を狙うのではなくて、自分が的の中に入ってしまえば、どこを向けて撃っても的にあたるというようなことを述べている(河合・鎌田2008:44)。


的を狙うというのは、外側から的を目指している状態で、どうしても一寸の狂いが的をはずすという構図になっている。しかし、「自分が的の中に入ってしまう」というのは、まさに的と自分とが一体化してしまうことを意味する。遠くの的を射るのではなく、いまここにいる自分で自分自身を射るような状態であるから、外側という概念がなくなってしまう。自分自身を射ることはごく簡単なことで、これは構図的には的を外す理由が見当たらない状態である。


集中力という点から考えると、自分が的の中に入ってしまうというのは、究極的に集中力が高まっている状態であるとも考えられる。外から的を狙う場合には、的を外す原因となりうる雑念が入る可能性がある。しかし、宇宙との一体化(悟り)の精神状態にあって極度に集中力が高まっている状態では、そのような雑念すら入る余地がないわけである。