トップマネジメントの報酬のインセンティブ効果

アメリカなどでは、トップマネジメントの報酬が異常に高い。トップマネジメントの報酬とヒラ社員の報酬との差が、何十倍という場合もザラである。日本などでは、このような現象が起こると、すぐさま批判の矢面に立つ場合が多い。日本の場合、ヒラ社員とトップマネジメントの報酬格差はアメリカなどほど高くなく、昇進するにつれてなだらかに連続的に報酬がアップするようなイメージである。


では、驚くほど高額なトップマネジメント報酬は、しかも、それ以外の社員との格差が非常に大きいような報酬の仕組みは、企業経営にとって、とりわけインセンティブの視点からはどのような効果をもたらすのだろうか。


トップマネジメント報酬が高額な理由はいくつか考えられる。例えば、トップマネジメントに就く人材がそれだけの能力や価値を持っているから、その人物の評価の反映であるという解釈である。また、トップマネジメントの職務が複雑で高度な仕事であるがゆえに、それだけの報酬に値する職務給であるという見方である。また、報酬が高額であればあるほど、トップマネジメントのモチベーションが高まるという考え方もある。


しかし、上記のような理由だけではない。トップマネジメントの高額の報酬は、トップマネジメント本人ではなく、それ以外の人物、例えば副社長、事業部長、部課長、場合によっては組織の末端に位置するヒラ社員といった、広範にわたる人々のインセンティブを高め、やる気を引き出すという効果が期待されていると考えられるのである。


つまり、トップマネジメント報酬は、組織における昇進トーナメントの優勝賞金であると解釈することも可能なわけである。優勝賞金がとても高額であるならば、その賞金をめざして、もう少しで手が届く準決勝、準々決勝にいる人々は猛烈に頑張る。もっと下の1回戦、2回戦にいる人々も、優勝賞金が多ければ夢も膨らみ、勝ち進むことによってそれが現実となる可能性が高まるため、やる気をだして頑張るというわけである。企業に新卒で入社したり、就職で社会に出た状態というのは、高額な優勝賞金のあるトーナメントの1回戦もしくは予選に参加したということになるわけである。


このようなトーナメント理論によるならば、トップマネジメントの報酬はその絶対額のみが重要というわけでもなく、優勝賞金であるトップマネジメント報酬と、いわゆる1回選、2回戦にいる人々との給料との「格差」が重要だといえる。昇進トーナメントを勝ち進んでも、その昇給額がたいしたことなければ、そんなに頑張る気にはならない。しかし、トーナメントを勝ち進むほど、ビッグな昇給が待っているのならば、頑張るわけである。ということは、1回戦、2回戦に値するヒラ社員の給料が低くても、彼らの仕事に対するインセンティブを高めることができるというわけである。


末端のヒラ社員の給料を高めれば、彼らのモチベーションが高まるといったような単純な考え方とは違う。それだと、ヒラ社員の人数分の昇給に必要な報酬の追加原資が膨大にかかる。トップマネジメント1人もしくはトップ数人の報酬のみを非常に高額にすることによって、つまり、いまは低くても、頑張れば将来手に入るかもしれない賞金を高く魅力的にすることによって、その他大勢の給料を低く押さえたまま、彼らのモチベーションを高めることもできるわけである。それだと人件費総額でみるとむしろ低コストになることもありうる。もちろん、社員が、自分もがんばれば賞金までたどり着けるかもしれない、という期待を抱き続けることが必要条件である。負けたら終わりではなく、敗者復活選を設けたり、参加賞、敢闘賞を設けたりするなどの工夫も必要となる。