荒川静香の金メダル

トリノ五輪フィギュアスケートで、荒川静香は、自分の持てる実力を120%出し切り、見事金メダルに輝いた。


実際にテレビで見ていたが、どんな選手であっても緊張すると思われる最高の舞台でありながら、終始落ち着き払った状態で、メダル候補がミスを連発する中、最初からある種の安定感と頼もしさを感じた。この選手がやってくれるかそうでないかというのは、出てきた瞬間の雰囲気で分かるものである。


さらに彼女は、技を競い合うオリンピックという場でありながら、他の選手と技を競う「競技」ではなく、自分の持ち味を最大限に出し切る「演技」として最高の自分を演出した。どちらかというと大柄な体と長い手足をしなやかに用い、軽やかなジャンプやスピン、ステップなどを使い分けることにより、アジア的ともいえる妙艶な演技を披露した。その演技は、彼女自身と音楽、氷、そして観客までもを一体化させ、見ているものが思わず息を呑む連続であり、ほぼノーミスですべてを終え、観客からのスタンディングオベーションによる拍手の渦に包まれたのである。


オリンピックというのは、どんなに優れた選手であっても緊張やそのほかの理由で自分の実力、練習の成果を出し切れないことが多い。そんな中、この日に向けて着実に仕上げがなされ、本番の舞台で、自分自身の実力を120%出し切ったことの素晴らしさを感じた。金メダル獲得の決定要因としては、彼女の精神的な要素が非常に強かったと思う。