逆境をチャンスに変える「EDGE」とは

世の中は必ずしも平等、公平ではない。ジェンダー、人種、宗教、価値観、その他、様々な特徴などによって、社会において常に不公平かつ不利な立場に置かれる場合は数多くある。これらの状況では、スタート地点に立った瞬間から他人から偏見の目で見られ、不公平な扱いをされてしまう。そのような不公平な立場、すなわち「逆境」に立っている場合、それを克服して成功するためには「努力」を惜しまないことが重要だと思うかもしれない。もちろん、努力は重要であるが、努力したからといって逆境から逃れることができるわけではない。つまり、世間で不利な立場にいる場合は、がんばればそれが報われるというわけではない。正しい方向に努力を向けなければ意味がない。

 

ファン(2021)は、このように逆境に置かれている人々は、エッジ(EDGE)を効かせることで逆境をチャンスに変えることができるという。しかし、ファンの言うエッジ(EDGE)は、一般的な言葉(優位性)と言う意味もさることながら、Enrich, Delight, Guide, Effortの略語である。つまり、ファンの言うエッジ(EDGE)を獲得して逆境をチャンスに変えることができる人というのは、相手を豊かにし(Enrich)、楽しませ(Delight)、こちらが望む方向に誘導する(Guide)ことができるうえ、このサイクルを繰り返して、いっそうの努力を続ける(Effort)ことができる人だというのである。

 

まず、Enrichとして、相手を豊かにするような価値を明確にする必要がある。「あなたが価値をもたらす、相手が豊かになる。さらに、ほかの人も、あなたが価値をもたらし、そのおかげで自分も豊かになると思う」。この「さらに」があるかどうかがカギを握るとファンは言う。そのためには、自分の「基本材料」を活用して、自分だけが提供できる価値を見つけ出すことが大事だというのである。基本材料とは、ごく少数のとびぬけた能力であり、自分の強みと弱みを両方とも理解することで浮かび上がってくる。自分の基本材料を見定め、それらを1点もしくは数点に絞り、それらが最も輝く場所を見つけ、制約があってもそれを利用しつつ基本材料を活用することでエッジを立たせることができるというわけである。

 

次に、Delightとして、相手を楽しませるため、喜ばせるために必要なのが「驚き」「意外性」である。まずは相手を驚かせ、楽しませるからこそ、心の扉を開いてくれるとファンはいう。そして、驚いてもらうためには「ユーモア」が欠かせないという。無害な逸脱理論によれば、ユーモアは、普通とは逸脱したこと、それ自体は無害であることの両方が知覚されることで生じる。そのために、適度な準備として、予期せぬもの、意外なものを探し、固定観念を覆すものを考える。ただし、準備しすぎず柔軟に対応する。否定的なレッテルを貼られたとしても、ユーモアで覆ることも可能であるとファンは指摘する。また、ありのままの自分を見せ、真摯に人と向き合うことも大事だという。ありのままの自分を見せながら、場を読む能力を発揮して相手を驚かせ、喜ばせる。そして、相手を楽しませる工夫から、相手を豊かにする説明へと移っていけばよいという。

 

さらに、Guideとして、相手を楽しませ、相手を豊かにできることを証明したら、次は相手を豊かにすることである。その際、相手が自分の仕事と価値をどう認識するかを誘導することが必要となる。誰にとっても、自分らしさというのはダイヤモンドの原石である。自分というダイヤモンドの最も輝いているところをすべて相手に見せることで、相手の認識を望ましい方向に誘導する。そのためには、自分自身のことをよく理解すると同時に、他者が自分をどう見ているのかを理解することも重要だとファンは言う。そうすれば、誰もが固定観念や偏見、レッテルで人を判断していることが分かるだろう。けっして、他人の固定観念の言いなりになってはいけない。むしろ、偏見やレッテルに先手を打ち、他人の偏見を、こちらの有利になるように利用するが重要なのだとファンはいう。

 

そして最後がEffortである。相手を豊かにし、楽しませ、こちらが望む方向に誘導することができれば、いくら偏見や差別などの不利な状況に置かれていたとしても、自分のエッジを獲得することができる。そうすれば、断固とした決意をもって、そしてタフな精神を維持して、そのエッジを強化するための努力を惜しまなければ、どの努力は報われるはずだとファンは示唆するのである。まさに、逆境を利用して、不利を有利に変え、不利をエッジに変えていくこととが可能になるというのである。

文献

ローラ・ファン 2021「ハーバードの 人の心をつかむ力」ダイヤモンド社