世界を正しく見る習慣をつけるために克服すべき10の思い込み

ロスリング、ロスリング、ロスリング・ロンランド (2019)は、貧困、富、人口、出生、死亡、教育、保険、ジェンダー、暴力、エネルギー、環境などの世界にまつわる事実について、医学生、大学教授、科学者、企業役員、ジャーナリスト、政治家など、ほとんどの人々が正しい事実を知らないことを指摘している。例えば、世界の人口のうち、極度の貧困層の割合はここ20年で半減したこと、いまや世界のほとんどの子供がワクチンを接種していることなどである。間違った知識をもった専門家に正しい仕事ができるわけがない。そこで、ロスリングらは、事実に基づいた世界の見方として「ファクトフルネス」という習慣を提唱する。そして、この習慣を身に着けるには、私たちが生まれつき身に着けている思い込み、すなわち私たち人類が進化の過程で生き残りのために身に着けた脳の本能(バイアス)を知り、それを克服することが重要だと説く。ロスリングらは、そのような本能を、以下の10にまとめている。


「分断本能」は、例えば豊かな国々と貧しい国々といったように 「世界は分断されている」という思い込みである。これは、人々は「二項対立」的な思考をすることに由来する本能である。しかし、多くの場合、実際には分断はなく、誰もいないと思われているその中間部分に大半の人がいるとロスリングらは説く。よって、分断本能を抑えるには、極端な数値の比較に注意をし、大半の人々がどこにいるのかに注目することが重要だという。「ネガティブ本能」は、 「世界がどんどん悪くなっている」というような思い込みである。人々は、物事の良い面よりも悪い面に注意を向け、記憶しがちである。ネガティブなニュースのほうが圧倒的に耳に残りやすいことからも分かる。よって、良い出来事はニュースになりにくいことや、悪いニュースが増えても、悪い出来事が増えたとは限らないことなどに留意しておくこと、そして過去は美化されがちであることを認識することが重要だとロスリングらは説く。


「直線本能」は、 「世界の人口はひたすら増える」というように、グラフは真っ直ぐになるだろうという思い込みである。よって、なんでもかんでも直線のグラフをあてはめないようにすることが重要だとロスリングらは説く。例えば、グラフにはS字カーブ、滑り台型、コブ方、倍増型などいろいろな形状がある。「恐怖本能」は、 「実は危険でないことを恐ろしい」と考えてしまうという思い込みである。人類は、生き延びるためにケガをしたり、捕まったり、毒に侵されるのを避ける必要があった。進化の過程で、これらを避けるための恐怖感を獲得した。一方、現代でもメディアは「身体的な危害」「拘束」「毒」に関連するニュースを流しており、人々の恐怖心をあおることになっているとロスリングらは指摘する。よって、私たちは、リスクを「危険度(質)」と「頻度(量)」の掛け算として正しく計算すること、恐ろしいと思う前に現実を見る、行動する前に落ち着くなどの対策が有効だとロスリングらはいう。


「過大視本能」は、「目の前の数字がいちばん重要」という思い込みである。人々は、物事の大きさを判断するのが苦手であり、一つの事例を重要視してしまう傾向がある。よって、ほかの数字と比較したり割り算したりすることによって同じ数字から違う意味を見出す姿勢が大切だとロスリングらはいう。「パターン化本能」は、 「ひとつの例にすべてがあてはまる」という思い込みである。人間はいつも、何も考えずに物事をパターン化し、それをすべてにあてはめようとする傾向にある。パターン化本能を抑えるには、分類を疑うことが必要だとロスリングらは説く。例えば、同じ集団の中の違いを探す、違う集団のあいだの共通項を探す、違う集団の間の違いも探すことなどが有効である。


「宿命本能」は、持って生まれた宿命によって、人や国や宗教や文化の行方は決まるといったように 「すべてはあらかじめ決まっている」という思い込みである。人間は昔から、あまり変化のない環境で暮らすことを選んできたことがこの本能に影響している。また、集団が特別な宿命を持っていると訴えれば団結しやすいし、ほかの集団に対して優越感も感じられやすい。この本能を抑えるためには、小さくてゆっくりした変化であっても、積み重なれば大きくなること、積極的に知識をアップデートすることが有効だとロスリングらは説く。「単純化本能」は、 「世界はひとつの切り口で理解できる」という思い込みである。私たちは、シンプルなものの見方に惹かれるからである。よって、世界をとんでもなく誤解し、世の中のさまざまな問題にひとつの原因とひとつの回答を当てはまてしまう。この本能を抑えるためには、1つの視点だけでは世界を理解できないことを知り、さまざまな角度から問題を見るようにし、さまざまな道具の入った工具箱を用意するのがよいとロスリングらはいう。


「犯人捜し本能」は、 「だれかを責めれば物事は解決する」という思い込みである。これは、なにか悪いことが起きたとき、単純明快な理由を見つけたくなる傾向があることに由来する。この本能を抑えるには、誰かに責任を求める癖を断ち切ること、犯人でなく、原因を探すことなどが必要だとロスリングらはいう。「焦り本能」は、 「いますぐ手を打たないと大変なことになる」という思い込みである。恐れに支配され、時間に追われて最悪のケースが頭に浮かぶと、人は愚かな判断をしてしまいがちである。よって、この本能を抑えるために、自分の焦りに気づくこと、いま決めなくてはならないことはめったにないことを知ること、深呼吸をすること、データにこだわることなどが有効だとロスリングらは説く。