重力の正体

松原(2017)は、アインシュタイン一般相対性理論は、重力という力を時間と空間の性質によって説明してしまうという。これはニュートン万有引力の法則による重力の説明とは大きく異なることであり、今となっては一般相対性理論のほうが明らかに正しい。そもそもニュートンは、引力や重力を「遠隔力」とし、絶対的な空間と時間の中に存在している遠くはなれた物体同士が引きあうというオカルト的な説明しかしていない。ニュートンの理論が間違っている理由は少なくとも3つある。1つ目は、この世の中に絶対的な空間と時間があるということであり、観測結果はこれを支持しない。2つ目は、質量をもった物体が引っ張りあうというもので、今では質量をもたない光子も重力によって引っ張られることが観測で確認されている。3つ目は、ニュートンの理論だと遠く離れた物体同士に働く力は瞬時に伝わることになるが、光速によって伝わる。つまり、力が瞬間的に伝わるわけではない(光速以上の速さでは伝わらない)。では、一般相対性理論によって説明される重力の正体とは何か。


一般相対性理論では、重力を時間と空間の性質で説明するわけだが、その際に押さえておくポイントが「等価原理」である。これは、慣性力と重力は区別がつかないというものである。例えば、無重力空間にあるエレベーター内に人がいるとして、それが特定の方向に加速されると、エレベーター内の人は加速とは反対の方向に重力を感じるし、エレベータ内では重力と同じ物理法則が成り立つ。つまり、慣性力は加速の方向とは逆の方向に力が働くように感じる現象であるから、重力は慣性力や加速と本質的には同じだと言って差し支えない。観測される違いは何もないからである。もう1つ押さえておくポイントは、この世の中で絶対なのは時間でも空間でもなく「光速C」ということだ。これも観測事実である。そもそも速さとは空間と時間の比なので、光速が絶対ということは、時間と空間は伸び縮みするどころか、その比が不変である。よって、時間と空間を本質的に同じものと考え、これらをくっつけて時空間として把握してもなんら不都合はないということである。そしてこの時空間は絶対なく伸び縮みする、つまり曲がるということだ。


それで、いよいよ重力の正体についての説明になるのだが、まず、重力と慣性力や加速は同じであるから、重力が離れた物体どうしが引き合う力であるというニュートンの説明は否定される。慣性力や加速は物体が引き合うこととは関係がない。むしろ、加速しているときに重力と同じ力を感じるのであるから、重力は物体が動いている、あるいは進んでいることと関係がある。そして大切なのは「どんな物体も時空間をまっすぐに進む(最短距離をすすむ)」ということだ。時空間をまっすぐに進むというのは、私たちからみて物体が止まっているように見えても、それは1秒たったら少なくとも30万キロ(=光速)は進んでいると考えてよい。なぜなら、時間と空間は本質的に同じものだからだ。物体が止まって見えるのは、私たちも物体と同じく秒速30万キロで進んでいるからである。ただ、時空間をまっすぐに進むといっても、時空間が曲がっていたら、それに沿って曲がって進む。一般相対性理論では、これが重力の正体だというのである。そして、ある物体が別の物体に引っ張られるように見えるのは、物体に質量があるとそのまわりの時空間が歪むからである。


物体に質量があると時空間が歪む。例えば、地球の周りの時空間は歪んでいる。だからといって、地球のまわりの時空間が大きく歪んでいるわけではなく、ほんの少しだけ歪んでいる。そして、地球上にいる私たちが物体を放り投げるとどうなるか。先述のとおり、物体は時空間の最短距離をまっすぐ進む。秒速30万キロで進んでいるので、数秒であっても、時空間上をほとんど直線的に動く。しかし、時空間が曲がっているので、それに沿って微妙に曲がって進む。ただし私たちも同じように秒速30万キロでほぼ直線を描いて時空間を進んでいるので、時空間のうち曲がっている部分の効果のみ強調されるかたちで物体の動きを知覚することになる。私たちは地球の地面に邪魔されて時空間をまっすぐに進めないから、物体のみがまっすぐに進み、私たちは時空間を(やむをえず)曲がって進む。これらを総合すると、私たちも、物体も、ほぼ直線的に進んでいるのだが、実際には、放り投げた物体が曲線を描いて地面に落下するように観測される。地面に落下するまで時空間をまっすぐに進むのは物体で、すでに地面にいるので時空を曲がってすすむのが私たち。その結果、物体が地面にぶつかることを観測する。これが重力の正体でなのある。


ただし、なぜ物体に質量があると時空間が歪むのかを理解しなければ、重力の正体を理解したとはいえないだろう。ここからは松原による説明の外になるが、おそらく、時空間、物体、質量、エネルギーが本質的には同じものだからではないだろうか。つまり、質量をもった物体のまわりの時空間が歪む理由は、時空間の一部が質量に化け、それが物体を形成しているからではないか。時空間の一部が欠けてしまうので時空間が歪むのではないだろうか。なぜそういえるかというと、そもそも物体、物質は何によって構成されているかといえば、それは波と粒子の両方の性質をもつ量子だからである。量子の波というのは、なんらかの物質が振動しているために起こっている波ではなく、真空を伝わる波である。では何が振動しているのかといえば、時空間が振動しているのだと考えられる。時空間が振動する理由は、エネルギーがあるからであり、エネルギーは、アインシュタインの有名な式(E = mc^2)が示す通り、質量に変換が可能である。時空間とエネルギーを不可分なものとすれば、エネルギーが質量に変換すれば、その分、時空間が欠けて、時空間が歪むということなのだろう。