成功するための鉄則

村上(2012)は、アーティストとして何よりも求められるのは、デッサン力やセンスなどの技術ではなく「執念」だという。「尋常ではないほどの執着力」を持ち、何があっても「やり通す覚悟」があるなら成功できるというのである。それがなければ成功できないとう図式ははっきりとしており、疑問を挟む余地はなく、それがすべてなのだという。


村上は、芸術家は「覚悟と肉体を資本としたアスリート」だという。この世界で生き残っていけるかを決めるのは才能などではなく、自覚や覚悟を持てるか、人間関係を大切にできるかといった、人間としての根源的な部分が問われてくるというわけである。芸能や演歌の世界と同じで、苦労をしていればそれは作品ににじみ出てきて、人に感動を与えるエネルギーになるという。不幸や不運、ゴッホピカソのように、スキャンダルといった要素も作家と作品に価値を与える。ということは、自分自身の弱いところ、醜悪なところを隠そうとするのではなく、さらけ出すことが武器になるというのである。


さらに、芸術の世界において最も大切にすることは「仁・義・礼」だという。「仁」とは人を思いやること。「義」とは利欲にとらわれず、なすべきことを選択する人助けの心。そして「礼」とは礼節の心。人間関係を尊重する精神である。


現代美術でいえば、成功のための座標軸は「構図」「圧力」「コンテクスト」「個性」だと村上は説明する。「構図」は、各部分の配置のことである。「圧力」は、作品制作に対する執念、異常なほどにも感じられる執着力である。「コンテクスト」は文法、文脈であり、その作品の意味を読み解きされる文脈である。「個性」は、つくれるものであり、つくるべきものだという。つまり、評価されるための個性を考え、それを演じているうちに自分のものにしていくということである。


そして、刹那主義では、大きな収穫を掴むことはできないと村上はいう。世界の舞台に飛び出していき活躍するために求められるのは覚悟である。将来をあきらめずに戦略を立て、努力を続けていく覚悟があるかないか、これは芸術の世界に限られたことではなく、どんな世界でサバイバルするためにも大切なのだというのである。